ちょっと古めのクルマと出会った、普通の人たちの日常 season1

 

東京の大学を卒業したら、実家に戻ってくるだろう …

 

きっと両親はそう思っていたに違いない。だけど私は戻らなかった。

 

当時付き合っていた彼と離れるのは嫌だったし、駄目元で応募した出版社に受かってしまったのだ。

 

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創刊から間もない女性誌での仕事は、想像以上にハードな毎日だった。ドタキャンを3回繰り返し、彼は去っていった。

 

飲み会に合流できるのは決まって深夜1時過ぎ。

 

その頃はみんな既にキマっていて会話にならないし、お腹ペコペコな私はビールで余り物を何でも流し込むワケ。

… あぁ … 最近太ったかも。

 

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月に一度か二度あるかないかの休日は、死んだように寝て過ごした。

 

就職が決まった春、この部屋を契約した。

 

10階建の 9階にある小さなワンルーム。ベランダの窓を開けると、すぐ下には首都高速 3号渋谷線。

 

内覧の時には気がつかなかったけど、向かいのマンションとマンションの間から、奇跡的に東京タワーが見えたのがちょっと嬉しかった。

 

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大好きなオレンジ色に淡く灯る灯り。

 

アレを見ながら、時にはメディキュット履きながらだけど、白ワインを呑んぢゃったりするハズだったのに。

 

近頃はカーテンも締め切り。濡れた髪を乾かしながら壁にかけてあるカレンダーを見て、ハッとした … 。

 

ヤバい、来月私 30ぢゃん。

 

短大生の子なんかが読む雑誌から、30代の主婦向けの雑誌へ移動になった。読み手と作り手に世代のギャップがあってはならない。会社の方針だ。

 

新しい部署では、流行りの飲食店やインテリア用品を扱うお店の紹介などを担当することになった。

 

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ここの部署は誰も夜中までダラダラと仕事をしない。土日もきっちり休み。

 

毎日定時の 18時までに、その日の仕事は完璧にこなす … そんな空気感だった。


金曜日。18時に退社し、19時前には三軒茶屋の駅に着いた。 何となく自宅とは反対側の南口から地上に出た。

 

この町の住人にとって国道 246号は大河のようなもので、北口に住んでいる人々は南口には行かないのだ。

 

8年間この街に住んでいながら、こちら側に来たのは数える程だった。

 

イートインできるパン屋さんで食事を済まし、国道を渋谷方面に歩いてみた。

 

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一軒気になるBARがあった。

 

ガラス張りのそのお店は、天井がとても高くシーリングファンがゆったり回っていた。

 

まだ開店したばかりだからか、お客さんの姿はなかった。

 

駅の方へ踵を返し、コンビニでビールを買ってビルの陰で一気に飲み干した。

 

だって … シラフぢゃ入り辛いぢゃん、BARって … 。

 

〜  続く 〜