ちょっと古めのクルマと出会った、普通の人たちの日常 season3
ボクの生まれ育った横浜市は坂道がとても多く、学生の頃に駅までチャリンコを漕ぐのが本当に苦痛だった。
就職をして実家を離れ、東京の世田谷区で一人暮らしを始めた。
あったら便利かなと思い、ふとマウンテンバイクを買ってみた。
南北の移動が不便な世田谷区では、思いの外自転車は便利な乗り物だと気づいた。
電車では面倒な下北沢から中目黒、三軒茶屋から自由が丘などの移動には重宝したし、何よりのんびり走るのは気持ちよかった。
そう行動範囲が広がったのである。
週末に隣町の銭湯に行ったり ( 富士山も見えるし …絵だけど )
本物の富士山が見える秘密の丘まで走るのが、密かな楽しみになった。
時には実家のある横浜市まで帰省し、母を驚かせた。
ボクは自転車が大好きになった。
ある晴れた日曜日の午後。
マウンテンバイクに乗り、自由通りにあるお気に入りのパン屋さんでいくつかパンを買った。
環八を走り、田園調布を抜け多摩川でのんびり草野球でも観ながら遅い朝ごはんを、と目論んだ。
その時、玉堤通りで信号待ちしている一台のクルマに惹かれた。
屋根には黒いキャリア( のちにスーリー http://abeshokai.jp/thule/ だと知った )、
その上にマウンテンバイクが二台積んであった。
真っ白なBMWのワゴン。
初めてクルマをカッコイイと思った。それまで自分にとってのクルマとは
「 結婚したら仕方なく買うモノ 」でしかなかったのである。
そうか … クルマに積んでいけば、山梨県北杜市の向日葵畑や、湘南だって夕日と富士山を愛でながら自分のチャリンコで気持ちよく走れるのか … 。
環八沿いにBMWのディーラーがあることを思い出し、チャリンコで向かった。
恐る恐る中に入りチラ見したクルマには、530万というプレートがあった。
… 全然無理だよ …。
それになんかさっきのクルマとは顔が違うし。
帰り道にコンビニで缶酎ハイを買って帰宅、Macを開いた。
初めて閲覧するクルマ関係のサイト。世の中には、いろいろなクルマがあるんだと正直驚いた。
どうやら自分が心を奪われたクルマは、四世代前のモデルで価格的には手が届きそうだった。
生まれて初めてのクルマ …
それもちょっと古めの外車。
ググってみると、BMW故障、BMW維持費、BMW壊れる … 閲覧するのをやめた。
翌日、会社で何人かの先輩に聞いてみた。
外車はやめとけ
開口一番、異口同音に言われた。
そういえば一人暮らしを始める時も、周りの連中はやめとけって言ってたな。
大学の時からだから、もう5年付き合ってる彼女。実家暮らしのお気楽娘。
クルマを買おうかと思うんだ。
へぇ何?
うん、BMWなんだけど …
ちょっと古めのと言いかけた途端、彼氏がBMW買うらしーとLINEでばら撒き出した。
三軒茶屋にある行きつけのBARのマスターに相談したら、買っちゃいなよ、日曜日の過ごし方かわるぞー、と言われた。
数週間後、ボクはクルマを購入した。
あの日見たのと同じ四世代前のBMWツーリング。
色はもちろんアルピンホワイトだ。スーリーのキャリアも奮発した。
新しいとか古いとか、どうでもいい。これこそがボクにとって理想の「 クルマ 」だ。
緊張の初ドライヴは、彼女と「 世界一の朝食 」と言われる七里ヶ浜のビルズに行った。
車は今のところトラブルなく走っている。
唯一のトラブルといえば、都築のIKEAに行った時のこと。
ソファーを購入したのはいいが、車に積めなくて喧嘩したぐらいだ。
来週は母と母の愛犬のモモ、それに彼女とボクとで西伊豆にある雲見温泉に行く予定。
レンタカーと違い、自分のクルマなら犬連れでも気兼ねなく出かけられるのがいい。
母と彼女は初顔合わせだ。
帰り道に「 マンションのモデルルームとか行ってみない? 」
なんて彼女が言い出さないか、ボクは今からドキドキしている。
〜 終わり 〜